高い包丁は、本当に良い包丁なのか?

前回、包丁を選ぶときには、

用途。
サイズ。
形。
ステンレスか炭素鋼か。
そして予算。

この辺りから考えてみましょう、という話をしました。

今回は、その最後に出てきた 「予算」 について、もう少し突っ込んでみましょう。

ここが一番大事です。

ここの数字によって、

皆さんと私たちがどれくらい幸せになれるか

が決まります。

とはいえ、

「高い包丁の方が良いなら、予算の許す限り高いものを買えばいいんじゃない?」

と思いますよね。

三浦刃物店のお財布事情だけを考えれば、私も強く同意したいところです。

しかし残念ながら、

「金額が高ければ高いほど良い包丁」

というわけではありません。

01

高い包丁は、本当に良い包丁なのか?

完全に性能だけで選ぶのであれば、どこかの時点から 「1円当たりの性能」は伸びにくくなっていきます。

経済学的に言うと、収穫逓減みたいなものです。

難しい話は置いておきましょう。

イメージとしてはこんな感じです。

包丁の価格と性能の関係を示したイメージ

三浦刃物店では、三徳包丁や牛刀の場合、

5万円前後から「コスパがすんごく悪くなり始める」

と考えています。

もちろん例外はあります。

ただ、この辺りまでくると、

  • 切れ味
  • 刃持ち
  • 鋼材
  • 仕上げ
  • 製造精度

など、実用品として求められる性能はかなり高い水準に達しています。

では、それ以上の金額になると何が起こるのでしょうか。

ここから先は、

「もっと切れる」だけでは説明できない世界

に入ってきます。

たとえば、

  • 特殊な鋼材
  • 手作業による仕上げ
  • ダマスカスや黒染めなどの意匠
  • 高級な柄材
  • 特定の鍛冶師や研ぎ師
  • 生産数の少なさ
  • 製造工程そのものへのこだわり

といった、より専門的だったり、個性的だったりする部分が 価格に強く反映されるようになります。

この辺りの包丁になると、

「性能が高いから高い」

というより、

「この包丁だから高い」

という要素が増えてきます。

知識がある方や、見た瞬間にひとめぼれしてしまう方は別として、 最初の一本を自分だけの判断で選ぶには少し難しい領域だと思います。

こういうときこそ店員を使ってください。

そのためにいます。

02

値段が上がると、何が変わるのか

では、値段が上がることで、ほかの包丁と何が変わってくるのでしょうか。

伸びやすい

切れ味
刃持ち
一概には言えない

研ぎやすさ
欠けにくさ
「性能」とは別の価値

ハンドル
意匠・模様
製造方法

見ての通り、値段が上がれば全部が順当に良くなる、 というほど単純ではありません。

特に分かりやすいのが、「研ぎやすさ」と「欠けにくさ」です。

この二つには、鋼材の「硬さ」が大きく関係しています。

高価格帯の包丁では、切れ味や刃持ちを良くするために、 高めの硬度を狙って作られているものも多くあります。

「硬い刃は変形しにくく、鋭い刃先を保ちやすい」

ここまでは良い話です。

ただ、

「硬い」という性質がもたらすのは、良いことだけではありません。

硬度を高めることで得られるメリットがある一方、 研ぎにくくなったり、使い方によっては刃先が欠けやすくなったりする場合があります。

つまり、

値段の高い包丁を買えば、すべての性能が上位互換になる

わけではありません。

03

ところで「切れ味が良い」って何でしょう

そして値段の話をすると、必ず出てくるのが、

「じゃあ高い包丁の方が切れるんですか?」

という疑問です。

ここで少し「切れ味」という言葉について考えてみましょう。

私は店頭で切れ味について説明するとき、

「切断できる能力」そのものとは少し違う

という話をすることがあります。

たとえば、世界最高の切れ味を持った包丁があったとします。

では、その包丁なら岩を切断できるでしょうか。

できません。

つまり、

切れ味が良い=何でも切断できる

ではないわけです。

私が考える「切れ味」は、

食材から返ってくるリアクションの鮮明さ

に近いものです。

トマトの皮に刃を当てたとき。

玉ねぎを切ったとき。

魚の身を引いたとき。 

包丁で食材を切る様子

刃が食材の中にどう入っていくのか。

どこで繊維に当たったのか。

どのくらい抵抗を受けているのか。

切れ味の良い包丁ほど、そういった食材からの反応が、 手に鮮明に返ってくるように感じます。

食材を無理やり押し潰して進んでいくというより、 刃が食材の中を通っていく感覚が分かる。

私にとっては、この感覚が「切れ味」にかなり近いです。

そう考えると、

「一番切れる包丁はどれですか?」

という質問も少し難しくなってきます。

「一番切れる」の“一番”は?

「切れ味」と呼んでいるものにも、いくつかの見方があります。

最初の鋭さ
切れ味の持続
食材への入り
刃抜け
研ぎ直しやすさ

何を「一番」にするかで、答えは変わります。

「切れ味」という一言の中にも、いろいろな要素があります。

だから店頭で「一番切れるもの」と言われたときに、 店員が逆にいろいろ質問し始めることがあります。

何を「一番」にするのか、一緒に決めているところです。

04

スペックは便利。でも数字だけでは決まらない

インターネットで包丁を探していると、

  • HRC
  • 刃渡り
  • 刃幅
  • 刃厚
  • 重量
  • 鋼材

など、いろいろな数字が出てきます。

もちろん大切な情報です。

数字が“良さそう”に見えても……

HRC

60 → 61 → 62 → 63

数字が高いほど良い?

→ そうとは限らない

刃厚

厚い → 薄い

薄いほど良い?

→ そうとは限らない

重量

重い → 軽い

軽いほど使いやすい?

→ 人による

スペックの数字 ≠ 包丁の順位

包丁は、一つの性能だけで出来上がっているものではありません。

だから、

スペックは包丁を選ぶための材料であって、 スペックそのものを買うわけではない

ということです。

では、性能や数字だけでは決められないところまで来たら、 何で包丁を選ぶのか。

次回は、

鋼材、柄、見た目、そして「誰が作ったか」

という、もう少し趣味性の強い世界へ入ってみましょう。

 

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